図1.本研究で開発した超偏極MRI技術の概要 肝臓内で働く酵素PONの基質となる[1-13C]メバロノラクトンを体内へ投与し、 超偏極MRIによってその変化を高感度に検出することで、生体内PON活性を非侵襲的に画像化する。
量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)量子生命科学研究所量子生命スピングループの高草木洋一グループリーダーらと、日本酸素株式会社(社長 永田研二)イノベーションユニット SI事業部 SIイノベーションセンター SI開発課の池田明夏里(課長)、金子大智(兼 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻量子生命科学コース)らによる研究グループは、肝臓の酵素であるパラオキソナーゼ(PON)活性を生体内で直接検出する新しい超偏極MRI分子プローブの開発に成功しました。 代謝機能異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)3)は、成人の約3人に1人が持つ生活習慣病であり、近年では高度肥満だけではなく痩せ型脂肪肝も問題とされています。MASLDの一部では重症化し、脂肪肝炎(MASH)3)や肝線維化を経て、肝硬変や肝がんへと進行します。PONは、これらの脂質代謝異常に関わる重要な酵素ですが、生体環境の影響を強く受けるため、これまでの血液検査などの体外診断法では生体内での働きを正確に評価することができませんでした。超偏極MRIは、近年注目されている量子センシング技術であり、ある特定の物質(分子プローブと言います)に対するMRIの感度を一時的に数万倍以上に上昇させることにより、生体内で働いている酵素の活性を、生体を傷つけることなくそのまま体外から計測するものです。本研究では、超偏極MRI技術をPONへ適用し、その働きを体外から検出する分子プローブとして、PONの反応基質の一つであるメバロノラクトンを13C核で標識した[1-13C]メバロノラクトンを創製しました。この分子プローブを超偏極装置にて高感度化し、実験用マウスの尾静脈より速やかに投与したところ、感度の低い通常MRIでは検出困難な生体内PON活性を約23万倍の超高感度、かつ約20秒の短時間の画像スキャンで非侵襲的に捉えることに成功しました。さらにこの分子プローブをMASLDやMASHを誘発したモデルマウスに適用することで、病気の進行に伴うPON活性の低下を超高感度かつ短時間に可視化・定量化することを実現しました。この超偏極MRI技術は、今後、PON活性の関与する脂質代謝異常やその他の生活習慣病の早期発見につながる新しい診断法として、その社会実装が期待されます。 本研究は、英国王立化学会が刊行する専門誌 Sensors & Diagnostics において、10 月 13 日に早期公開版がオンライン公開されており、正式版は 11 月 12 日にオンライン掲載される予定です。 【用語解説】 1)パラオキソナーゼ(Paraoxonase; PON) 生体内に存在するラクトナーゼ活性を有する酵素です。PONファミリー(1〜3)のうち PON1は、主に肝臓で産生され、脂質代謝や酸化ストレス防御に関与する酵素と考えられています。 2)超偏極MRI技術 磁気共鳴イメージング(MRI)法の検出感度を劇的に向上させる量子センシング技術です。超核偏極技術の中で最も広く使われている動的核偏極法では、核磁気共鳴法の検出対象となる安定同位体で標識された分子と、偏極源となる安定ラジカル分子を混合させ、極低温・高磁場下にてマイクロ波を照射することで、核磁気共鳴法の検出感度を劇的に高感度化させる超偏極状態を作り出します。 3)代謝機能異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)/脂肪肝炎(MASH) 肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの代謝異常を背景に、肝臓に脂肪が溜まった状態です(MASLD)。病態が進行すると脂質蓄積に加えて炎症や肝線維化が進展し、重症化します(MASH)。最終的には肝硬変や肝がんにつながる可能性があるため、早期の病態把握と治療介入に向けた研究開発が進められています。一方、現在の生体外マーカーを用いた臨床検査では、脂肪蓄積や炎症、線維化などの病態を十分に区別して評価することが難しく、肝臓の状態を非侵襲的に評価する新たな診断技術が求められています。
本件に関するお問い合せ 日本酸素株式会社 広報部: 03-5788-8015
ページトップへ